ドクターズノート

健康診断で「異常なし」でも安心できない?忍び寄る『血糖値スパイク』の真実

「健康診断の結果は毎年オールA。でも、なぜか食後に猛烈な眠気に襲われる…」
「しっかり食べたはずなのに、すぐにお腹が空いてしまう…」

もし、あなたにこんな心当たりがあるなら、それは『血糖値スパイク』(食後高血糖)のサインかもしれません。

健康診断の空腹時血糖値は正常でも、食後だけ血糖値がジェットコースターのように急上昇・急降下するこの現象は、いわば「隠れ高血糖」。自覚症状が乏しいまま静かに血管を傷つけ、将来の心筋梗塞や脳梗塞、さらには認知症のリスクを高めることが、近年の研究で明らかになってきました。

 

この記事では、あなたの健康を静かに蝕む「血糖値スパイク」の正体と、その深刻なリスク、そして今日から始められる具体的な対策について、最新の医学的知見に基づいて詳しく解説します。

 

血糖値スパイクとは何か?

正常な血糖値と「スパイク」の違い

血糖値スパイクを説明する図。健康な人は血糖が食後ゆるやかに上昇し2時間後に140mg/dL未満へ戻る。スパイクがある人は食後180mg/dLまで急上昇し、その後60mg/dLまで低下する反応性低血糖を示す。健康な人の体では、食事で糖質を摂取すると血糖値は緩やかに上昇し、膵臓から分泌される「インスリン」の働きによって、食後2時間以内には140mg/dL未満の落ち着いた状態に戻ります。

 

ところが、何らかの理由でインスリンの効きが悪くなったり(インスリン抵抗性)、分泌のタイミングが遅れたりすると、食後の血糖値が140mg/dL以上に急上昇してしまいます。これが「食後高血糖」です。そして、この急上昇の後に、インスリンが過剰に分泌されて血糖値が急降下する「反応性低血糖」が起きます。血糖値を測定するとまさにジェットコースターのような乱高下をするため「血糖値スパイク」と呼びます。

この現象の最も厄介な点は、空腹時の血糖値は正常範囲内であることが多いため、通常の健康診断では見逃されやすいという事実にあります。

なぜ血糖値スパイクは危険なのか?

血糖値スパイクが「悪」とされる最大の理由は、血管へのダメージです。血糖値が急上昇するたびに、血管の内側の壁(血管内皮)に大量の活性酸素が発生し、細胞を傷つけ、炎症を引き起こします。この小さな傷が積み重なることで、血管は弾力性を失い、硬く、もろい状態、すなわち動脈硬化が進行してしまうのです。

 

動脈硬化は、単なる老化現象ではありません。数多くの医学研究が、食後高血糖が将来の深刻な病気の引き金になることを証明しています。

 

疾患名

食後高血糖との関連

根拠となる研究(例)

心筋梗塞・脳卒中

心血管疾患による死亡の独立した危険因子

日本の「舟形町研究」では、食後血糖値が高い人ほど心血管疾患での死亡率が高いことが示されています [1]。

認知症

アルツハイマー型認知症の発症リスクが約1.5倍に増加

九州大学が中心となった「久山町研究」では、血糖値が高い状態が続くと、脳の老廃物であるアミロイドβが蓄積しやすくなることが示唆されています [2]。

2型糖尿病

糖尿病予備群から糖尿病への進行を加速させる

血糖値スパイクを繰り返すことで膵臓が疲弊し、インスリン分泌能力が低下。本格的な糖尿病へと移行するリスクが高まります。

がん

特定のがん(大腸がん、すい臓がんなど)のリスクを増加させる可能性

高血糖状態が続くことで、体内の炎症が促進され、がん細胞の増殖を促す環境が作られると考えられています。

重要なのは、これらのリスクは「糖尿病」と診断された人だけの問題ではない、ということです。ヨーロッパで行われた大規模研究「DECODE study」では、空腹時血糖値よりも食後血糖値の方が、心血管疾患による死亡と強く関連していることが報告されており、「隠れ高血糖」の段階から対策を始めることの重要性が示されています [3]。

 

あなたは大丈夫?血糖値スパイクを起こしやすい人の特徴

以下の項目に当てはまる方は、血糖値スパイクが起きやすいと考えられます。ご自身の生活習慣をチェックしてみましょう。

 

  • 食事は早食いで、あまり噛まない
  • ご飯、パン、麺類などの炭水化物が大好き
  • 食事は炭水化物から食べ始めることが多い
  • 甘いお菓子やジュースをよく口にする
  • 定期的な運動習慣がない
  • 肥満気味、またはメタボリックシンドロームを指摘されたことがある
  • 家族に糖尿病の人がいる
  • (特に注意)痩せているのに、筋肉量が少ない

 

痩せている方でも、筋肉量が少ないと糖を処理する能力が低いため、血糖値スパイクを起こしやすいことがわかっています。見た目では判断できないのが、この問題のもう一つの怖さです。

 

血糖値スパイクで出やすい症状 — こんなサインに要注意!

身体の中ではインスリンの過剰分泌により血糖値が急激に下がりすぎる「反応性低血糖」がおこります。反応性低血糖の影響で以下のような症状が出ることがあります。

① 食後の強い眠気(“ぐったり”モード)

これが最も多い症状です。これまで食後だからと放置している症状は低血糖の可能性があります。

食後1~2時間後に、抗い難い眠気に襲われることはありませんか?これは、血糖値が急上昇した後に、インスリンの過剰分泌によって急降下することで起こります。脳のエネルギー源であるブドウ糖が急に不足すると、脳は「休息モード」に入り、強い眠気が引き起こされます。特に午後の会議中や運転中に眠くなるという方は要注意です。

② 食後すぐにお腹が空く

「さっき食べたばかりなのに、もうお腹が空いた…」という経験はありませんか?これも血糖値スパイクの典型的な症状です。

血糖値が急降下すると身体が

“エネルギーが足りん!”
と誤解してしまい、短時間で再び空腹を感じてしまいます。

ご飯食べたばっかりなのにすぐお腹が空く場合、スパイクの影響かもしれません。

その結果、つい間食に手が伸びてしまい、さらに血糖値が乱高下するという悪循環に陥ります。

③ 疲れ・だるさが抜けにくい

朝起きた時から疲れている、午後になると体がだるくなる、という方は多いのではないでしょうか。血糖値の乱高下が繰り返されると、体はエネルギーを効率的に使うことができず、常に「ガス欠」状態になります。その結果、一日中疲労感が続き、休んでも回復しないという状態になってしまうのです。

④ 集中力・注意力の低下

仕事や勉強をしていて、「なぜか集中できない」「判断力が落ちている気がする」と感じることはありませんか?脳のエネルギー源はブドウ糖です。血糖値が不安定だと、脳に安定的なエネルギーが供給されず、集中力や判断力が低下します。特に午後の重要な会議やテストで実力が発揮できないという方は、血糖値スパイクが原因かもしれません。

⑤ 気分のアップダウン・イライラ感

血糖値の急降下は、単に身体的な症状だけでなく、精神的な不調ももたらします。血糖値が低下すると、ストレスホルモンであるアドレナリンやコルチゾールが分泌され、イライラしやすくなったり、気分が落ち込んだりします。理由もなく不安になったり、些細なことで怒りやすくなったりするのは、実は血糖値の乱高下が原因かもしれません。

⑥手の震えや冷汗
血糖値が急降下すると、低血糖状態になり、手が震えたり冷汗が出たりすることがあります。これは体が「危機的状況」と判断して、アドレナリンを分泌しているサインです。
これらの症状に3つ以上当てはまる方は、血糖値スパイクが起きている可能性が高いです。特に、症状が毎日のように繰り返されている場合は、早めに医師に相談することをお勧めします。
重要なのは、これらの症状は「病気」ではないため、一般的な健康診断では見逃されやすいということです。しかし、放置すると、前述の通り、将来の心筋梗塞や脳梗塞、認知症といった深刻な病気のリスクが高まります。今のうちに対策を始めることが、将来の健康を守る最善の方法です。

今日からできる!血糖値スパイクを防ぐ5つの生活習慣

血糖値スパイクは、日々の少しの工夫で予防・改善が可能です。

ぜひ、できることから取り入れてみてください。

① 食べる順番を「野菜・きのこ・海藻」から(ベジファースト)

食物繊維を先に摂ることで、後から入ってくる糖の吸収を穏やかにします。理想の順番は「①食物繊維 → ②タンパク質(肉・魚・卵・大豆製品) → ③炭水化物」です。

② 「ゆっくり、よく噛む」を意識する

早食いは血糖値の急上昇に直結します。一口30回を目安に、時間をかけて味わって食べることを心がけましょう。

③ 賢く選ぶ「低GI食品」

GI(グリセミック・インデックス)とは、食後の血糖値の上がりやすさを示す指標です。白米を玄米に、食パンを全粒粉パンに変えるなど、低GI食品を意識的に選ぶと効果的です。

④ 食後の「ちょこっと運動」を習慣に

食後30分~1時間以内に、15分程度のウォーキングや軽い筋トレを行うのが最も効果的です。摂取した糖がすぐにエネルギーとして消費され、血糖値の上昇を抑えることができます。

⑤ 「分割食」を取り入れる

一度にたくさん食べるのではなく、1日の食事量を4~5回に分けて食べることで、一回あたりの血糖値の上昇を小さく抑えることができます。おやつにナッツやヨーグルトなどを取り入れるのも良いでしょう。

 

「もしかして…」と思ったら、専門医にご相談ください

血糖値スパイクは、通常の健康診断で行われる空腹時血糖検査だけでは見つけることができません。

 

当院では、より詳細に血糖値の状態を把握するための検査を行っています。

  • HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)検査
    糖尿病の診断や治療効果の判定には必須の検査ですが、前述の通り「平均値」であるため、食後高血糖を見逃してしまう可能性があります。この検査が正常範囲内であっても、安心はできません。
  • 1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)検査
    過去数日間の血糖変動を鋭敏に反映する検査です。特に食後の高血糖を検出するのに優れており、HbA1cが正常でもこの数値が低い場合は「食後高血糖」が強く疑われます。
  • 持続血糖測定(CGM)(フリースタイルリブレ)
    センサーを腕などに装着し、24時間連続で血糖値の変動を「見える化」する検査です。ご自身の食事や運動が血糖値にどう影響しているかを具体的に知ることができ、生活習慣改善の大きな助けになります。

まとめ

食後の眠気やだるさといった些細な不調の裏には、「血糖値スパイク」という、将来の健康を脅かす重大なリスクが隠れているかもしれません。

 

しかし、それは決して無視できない危険信号であると同時に、あなたの体からの「生活習慣を見直すチャンス」というメッセージでもあります。

 

当院では、病気の治療はもちろんのこと、病気を未然に防ぐ「予防医療」にも力を入れています。この記事を読んで少しでも不安に感じた方、ご自身の血糖値の状態を正確に知りたい方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。お一人おひとりのライフスタイルに合わせた、最適なアドバイスをさせていただきます。

 

参考文献

[1] The Funagata Diabetes Study
[2] The Hisayama Study
[3] The DECODE study (Diabetes Epidemiology: Collaborative analysis Of Diagnostic criteria in Europe)

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