
ドクターズノート
「便秘くらいで病院は大げさ」——その油断が、大腸がんの発見を遅らせることがあります
放置してよい便秘と、急いで受診すべき便秘。その"見分け方"を、消化器内科の視点でお伝えします。
「便秘なんて誰にでもある」「市販薬でごまかせば十分」——そう思っていませんか。確かに、便秘の多くは生活習慣の見直しで良くなります。ですが実は、その便秘が大腸がんをはじめとする重い病気の"最初のサイン"であることが、決して珍しくないのです。放置してよい便秘と、そうでない便秘。その境目を知っておくことが、ご自身とご家族を守ります。
1なぜ「たかが便秘」で片づけてはいけないのか
便秘が危険なのには、実は"二つの理由"があります。
一つは、便秘そのものが、まれに命に関わる合併症を引き起こすこと。もう一つは、便秘という症状の裏に、大腸がんなどの重い病気が隠れているケースです。
長い期間ためこんだ硬い便(宿便)が腸を塞ぐと、その手前の腸に強い圧力がかかり、腸の壁の血流が途絶えて壊死してしまうことがあります。これが「閉塞性大腸炎(宿便性大腸炎)」です。進行すると腸に穴があき(穿孔)、敗血症性ショックから命に関わる緊急事態に至り、緊急手術が必要になることもあります。頻度こそ高くありませんが、決して「便秘では死なない」とは言い切れないのです。
そして、こうした事態の多くは、長年の便秘を「体質だから」と放置し、硬い便をため込み続けてきた方に起こります。しかも、大腸がんのような腫瘍がある場合だけでなく、いわゆる"ただの便秘"(単純性便秘)でも起こり得ます。報告例のなかには健康な若い方も含まれており、「まだ若いから大丈夫」とは言い切れません。若いうちからの便秘こそ、放置せずに向き合っておきたい症状なのです。

——とはいえ、より多くの方に関わるのは"二つ目"のほうです。その代表が大腸がんです。大腸がんは、2023年の部位別がん罹患数で男女あわせて1位。新たに診断された方は年間およそ15万人にのぼり、死亡数で見ても女性では1位、男性では2位を占めています。
そして厄介なのは、大腸がんは初期段階では自覚症状がほとんど出ないこと。症状が出るとしても、それは「便秘」「便が細い」「血が混じる」といった、"よくある不調"の顔をしてあらわれます。だからこそ、「いつもの便秘」と見過ごされやすいのです。
2放置してはいけない7つの警告サイン(レッドフラッグ)
次のサインが一つでも当てはまる便秘は、「市販薬で様子見」ではなく、なるべく早く医療機関で確認すべき便秘です。
- 便に血が混じる、または黒っぽい便が出る(血便・下血)
- 50歳を過ぎてから、急に便秘になった/排便の習慣が変わった
- 便が以前より細くなった(鉛筆のような便)
- 思い当たる理由がないのに体重が減ってきた
- 強い腹痛・お腹の張り・嘔吐・発熱をともなう
- 家族に大腸がんになった人がいる
- 健診の血液検査で「貧血」を指摘された
これらは便秘だけでは説明のつかない症状で、大腸がんや炎症性腸疾患などが背景にある可能性を示すサインです。「様子を見よう」が、いちばん危険な選択になり得ます。
3「体質だから」で済ませてはいけない理由
便秘を長年「自分の体質」と思い込んでいる方は少なくありません。ですが、便秘の裏に隠れる病気には、大腸がんのほかにも大きなポリープ・腸の狭窄・炎症・甲状腺機能の低下などがあります。これらを、ご自身で見分けるのは困難です。
特に誤解されやすいのが「出血」です。
痔の出血は排便時にトイレットペーパーへ鮮血が付くことが多い一方、大腸がんの出血は便に暗い赤色の血が混じったり、貧血をともなったりすることがあるとされています。とはいえ、この見分けを自己判断に頼るのは危険です。血便に気づいたら、まず原因を確かめることが大切です。
4とはいえ、多くの便秘はセルフケアで良くなります
ここまで警告サインをお伝えしましたが、第2章に当てはまらない便秘の多くは、薬に頼る前の生活習慣の見直しで改善が期待できます。まずは2〜4週間、次のことを試してみてください。
- 食物繊維:野菜・海藻・果物・豆類などを意識して。急に増やすとお腹が張るので、2週間かけて少しずつ。
- 水分:1日1.5〜2Lが目安(※心臓・腎臓の病気で水分制限のある方は主治医にご相談ください)。
- 朝のトイレ習慣:朝食後の15〜30分は最も便意が起きやすい時間帯。便意がなくても数分座る習慣を。
- 適度な運動:1日20分のウォーキングでも腸の動きが促されます。
- 発酵食品:ヨーグルト・味噌・納豆などは"補助"として。これだけで根治するものではありません。
これで良くなれば安心です。改善しない場合が、受診のタイミングです。

5いちばん危ないのは「市販薬で抑え込み続ける」こと
刺激性の下剤(センノシドなど)を毎日使い続けると、腸が薬に頼りがちになることがあります。それ以上に問題なのは、薬で症状を消してしまうと、背景に隠れた病気のサインまで見えにくくなってしまうことです。
「何科に行けばいいか分からない」という声をよくいただきますが、便秘の相談先はまず消化器内科(胃腸内科)です。排便時の痛みや痔をともなう場合は、肛門の診療との連携も検討します。
6当院での便秘診療
当院では、いきなり検査ではなく、まず丁寧な問診と診察から始めます。排便の回数や便の状態、生活習慣、服用中のお薬などをうかがい、腹部の診察・血液検査・腹部エックス線などで全身の状態を確認します。第2章の警告サインがある方や、市販薬で改善しない方には、必要に応じて大腸カメラを含む詳しい検査をご案内します。
薬で抑え込むだけでなく、生活習慣の改善と組み合わせて、再発しにくい排便リズムを取り戻していただくことを大切にしています。
7よくあるご質問(FAQ)
Q. 何日出なければ受診の目安ですか?
排便回数だけの決まった基準はありませんが、週2回以下が続く、または残便感・強い腹痛・硬い便が続く場合は受診をおすすめします。
Q. 血便が出ましたが、痔だと思います。受診は必要ですか?
痔による出血は多いですが、大腸がんなど他の原因との見分けは自己判断が難しいものです。一度は原因を確認されることをおすすめします。
Q. 市販の便秘薬は飲み続けて大丈夫ですか?
刺激性下剤の常用は、腸が薬に頼りやすくなることがあります。数週間以上続けている方は、一度かかりつけ医で見直しをご検討ください。
国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」 / 厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率報告 2023」 / 日本消化器病学会「慢性便秘症診療ガイドライン」 / Rome IV 診断基準 / 宿便性閉塞性大腸炎に関する症例報告(日本腹部救急医学会雑誌 ほか)








