ドクターズノート

「年をとったら少なめに」ではなく、実はタンパク質はもっと必要です

栄養・フレイル予防

「年をとったら食事はあっさりで十分」——それ、危険な思い込みかもしれません

高齢になるほどタンパク質の必要量は増えるのに、実際に食べられる量はむしろ減っていく——体重が普通、あるいは多めでも、その裏で筋肉だけが減っている場合があります。

「最近、食が細くなってきた」「体重は変わっていないから大丈夫」——そう感じている方は少なくありません。確かに、加齢とともに食欲や消化機能は少しずつ落ちていきます。しかし実は、高齢になるほど体はより多くのタンパク質を必要としています。しかも体重が変わらない、あるいはむしろ重いという方の中にも、筋肉だけがひそかに減っている「隠れフレイル」の方がいます。「必要な量」は増えるのに「食べられる量」は減っていく——この静かなギャップこそ、高齢期の健康を蝕む最大の落とし穴です。

高齢の男女が食卓を囲み、焼き魚・卵焼き・豆腐・納豆などのタンパク質豊富な和食を楽しんでいる様子。

1高齢者ほど、体重あたりのタンパク質必要量は増えます

高齢になるほど、体重1kgあたりで見たタンパク質の必要量はむしろ大きくなります。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、65歳以上は体重1kgあたり1日1.0g以上の摂取が目安とされており、現役世代(18〜64歳)の目安(体重1kgあたり約0.95g)よりも高い水準です。

その背景にあるのが「アナボリックレジスタンス」と呼ばれる現象です。加齢に伴い、筋肉がタンパク質の合成刺激に反応しにくくなるため、若い頃と同じ量を食べても同じだけの効果が得られにくくなります。国際的な専門家グループ(PROT-AGE)も、健康な高齢者には1日1.0〜1.2g/kgのタンパク質摂取を推奨するとしています。

現役世代(18〜64歳)の目安
0.95
g/kg体重/日
65歳以上の目安
1.0〜1.2
g/kg体重/日

2一方で、実際の摂取量はむしろ減っていく傾向にあります

必要量が増える一方で、実際の摂取量は年齢とともに低下しやすいというのが現実です。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、65歳以上で低栄養傾向(BMI20以下)とされる方は男性で約12%、女性で約22%にのぼり、特に85歳以上ではこの割合がさらに高くなるという報告があります。海外の研究でも、高齢者の約25〜30%に「加齢性食欲低下(anorexia of aging)」がみられると報告されています。

65歳以上・低栄養傾向(男性)
約12
%
65歳以上・低栄養傾向(女性)
約22
%
加齢性食欲低下がみられる高齢者
25〜30
%(海外の報告)

3体重が普通、あるいは多めでも安心とは限りません——「隠れフレイル」に注意

体重や見た目の体型が変わっていなくても、筋肉量だけが減っている場合があり、これは医学的に「サルコペニア肥満」と呼ばれ、通称「隠れフレイル」「隠れ肥満」とも呼ばれています。脂肪は蓄積している一方で筋肉は減っているため、体重計の数値やBMIだけでは気づくことができません。

この状態は、サルコペニアや肥満がそれぞれ単独である場合よりもリスクが高いと報告されています。日本サルコペニア・フレイル学会の診療ガイドライン(2017年版)では、サルコペニア肥満は心血管疾患による死亡や総死亡のリスクが高いとされています。2024年に発表された海外の大規模コホート研究(Rotterdam Study、JAMA Network Open誌)でも、サルコペニアやサルコペニア肥満に該当する高齢者は、そうでない高齢者と比べて総死亡リスクが高かったと報告されました。また、複数の研究を統合したレビューでは、サルコペニアまたは肥満が単独の場合と比べて、日常生活動作の障害が起こるリスクが2.5倍に上るという報告もあります。

一般的な肥満とサルコペニア肥満を比較したイラスト。見た目や体重、BMIがほぼ同じでも、サルコペニア肥満では脂肪が多く、筋肉量が少なくなっていることを示している。

「隠れフレイル」が見逃されやすい理由

  • 体重が減っていない、むしろ増えている場合もあるため、本人も周囲も気づきにくい
  • 見た目が「太っている」印象のため、筋肉量の減少という別の問題が隠れてしまう
  • 体重・BMIだけの健康チェックでは、筋肉と脂肪の内訳までは分からない

体重の増減だけでなく、筋肉量と脂肪量の内訳を数値で確認することが、「隠れフレイル」に気づく一番の近道です。当院ではInBodyによる体組成測定を行っており、体重の裏側にある筋肉量の状態を具体的に確認いただけます。

当院のInBody体組成測定について詳しく見る

4「食べているつもり」でも足りなくなる理由は、いくつも重なっています

高齢期に食事量が減っていく背景には、単なる「量を控えている」だけでは説明できない、いくつもの身体的・生活的な要因が重なっています。

  • 基礎代謝の低下(20歳時と比べて約20〜25%低下)により、食欲そのものが湧きにくくなる
  • 嗅覚・味覚の衰えにより、食事をおいしく感じにくくなる
  • 胃の排出が遅くなり、少し食べただけで満腹感を覚えやすくなる
  • 歯の状態や嚥下(飲み込み)機能の低下
  • 孤食や調理の負担増加など、生活面の変化

5タンパク質不足を放置すると、要介護へとつながるリスクが高まります

タンパク質が不足した状態が続くと、筋肉量が徐々に減少し(サルコペニア)、そこから要介護状態へと進んでしまうリスクが段階的に高まっていきます。筋肉の約80%はタンパク質でできており、筋肉量の減少は歩行速度の低下や転倒リスクの上昇、そしてフレイル(虚弱)へとつながる大きな要因とされています。あわせて免疫機能も低下しやすく、感染症にかかりやすくなるという報告もあります。

気づかずに放置した場合
サルコペニア → フレイル → 要介護
筋肉量の減少、転倒リスクの上昇、感染症のかかりやすさにつながりやすくなります。
早めに気づいて対策した場合
筋肉量・活動量の維持
タンパク質摂取と運動の見直しで、筋力や日常の活動量を維持しやすくなります。

6食事と軽い運動、そして当院のサポートで「隠れ低栄養」「隠れフレイル」は防げます

「隠れ低栄養」「隠れフレイル」は、タンパク質摂取だけでなく、筋肉を使う運動をあわせて行うことで、より効果的に防いでいくことができます。特にサルコペニア肥満では、食事の工夫だけでなく運動を組み合わせることの重要性が指摘されています。

ご自宅で今日からできること

  1. 1食あたり20gを目安に。卵1個(約7g)、納豆1パック(約8g)、魚や肉のおかず1品(約16〜20g)などを組み合わせ、朝・昼・夕で「20g×3食」を意識してみましょう。
  2. 食べやすい高タンパク食品を活用する。豆腐、納豆、卵、ヨーグルト、牛乳、白身魚などは、噛む力が弱くなっても食べやすい食品です。食欲がないときは、プロテインや栄養補助食品も活用できます。
  3. 軽い筋トレを習慣にする。スクワットやかかと上げなど、椅子につかまりながらできる運動でも構いません。タンパク質は摂るだけでなく、筋肉を使うことでより効果的に筋肉づくりに活かされます。
  4. 体重を毎週チェックする。体重減少は低栄養のサインの一つです。「最近ズボンが緩くなった」「1〜2か月で2〜3kg痩せた」という場合は、早めのご相談をおすすめします。

高齢者の低栄養・フレイル予防として、魚・卵・豆腐・納豆・乳製品などの高タンパク食品を摂る食事と、椅子につかまって行うスクワットやかかと上げなどの軽い筋力運動を組み合わせる様子を示したイラスト。

当院でサポートできること

  • InBodyによる体組成測定——体重だけでは分からない筋肉量・脂肪量のバランスを数値で確認できます。運動の効果を数値で確認する際にも活用いただけます。
  • 管理栄養士による栄養指導——一人ひとりの食生活に合わせて、無理なく続けられるタンパク質の摂り方をご提案します。
  • プロテインの取り扱い——食事だけで補いにくい場合、当院でプロテイン製品をご案内することも可能です。

「体重は変わっていないから大丈夫」——その前に、一度ご相談ください

タンパク質は、必要な量が増えているのに摂取量が減りやすいという年齢特有のギャップを抱えています。しかも体重の増減だけでは、筋肉が減っているかどうかは分かりません。当院では、InBodyによる体組成測定や管理栄養士による栄養指導、プロテインのご案内など、食事と運動の両面から日々の生活だけでは補いにくい部分をサポートしています。特に、体重減少を感じている方、体重は変わらない・むしろ増えているのに筋力の衰えを感じる方、ご高齢のご家族の食欲低下が気になる方は、一度ご相談ください。

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監修

嬉野 浩樹 消化器外科・消化器内科

久留米大学 卒

  • 日本外科学会 外科専門医
  • 日本消化器外科学会 消化器外科専門医
  • 消化器がん外科治療認定医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
  • 日本肝臓学会 肝臓専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医

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参考資料:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」/厚生労働省「国民健康・栄養調査」/健康長寿ネット「フレイルと栄養」/e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」/PROT-AGE study group(Bauer et al., J Am Med Dir Assoc. 2013)/日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」/Benz E, et al. JAMA Netw Open. 2024(Rotterdam Study)

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